民事再生の実務について

弁護士 李 暎浩


民事再生手続きとは

裁判所の公的手続に則って、債務者の債務を一時棚上げしたうえ、債権者の同意を得て債務をカットすることで、債務者の事業・生活を従前どおり継続させながらも、可能な限り債務の弁済をさせる手続です。
個人の方の場合は、簡略化された手続として、個人再生手続きという特則が規定されていますが、今回は、原則的に経営陣の交代を必要とせずに、会社を再建させることの手続きである、会社の民事再生手続の実務について、ご報告させていただきたいと思います。

ある日

ある会社の社長さんから、非常に焦った様子で、「このままでは、会社の資金繰りがショートしてしまいそうなのです。ただ、厚かましいお願いかもしれませんが、半世紀続けてきた会社であり、従業員もたくさんいる会社を、破産させたくないのです。」とご相談がありました。

申立て前

我々はまず、「資金繰りのショート」が予想される実態を示す資金繰り表の作成をお願いしました。
手形の不渡りの危険性があること、予想される時期についても合わせて確認しました。
次に、不動産等の資産の把握と、資産に抵当権などの権利が存在するかどうかの確認を行い、財産目録を作成しました。
さらに、社長自ら経営不振の原因分析を行うことを促したう後、資金繰り表に照らし合わせて、同社は破産せずに事業を継続できる可能性があると判断し、抵当権者である銀行など、主要な債権者に対し民事再生申立についてのご理解を求めるための挨拶回りを行いました。

申立て直後、それから…

弁済禁止の保全処分とは、裁判所が、民事再生手続開始決定を下すまでの間、再生債権者の財産散逸を防ぐために、弁済行為を禁止する処分です。
保全処分発令後、税務署等以外の債権者から「代金を支払ってほしい」「契約解除したい」などという要請がなされましたが、申立時の財産を保全・確保すべきとする民事再生法の規定とその趣旨に従い、社長さんをはじめ、社員の皆さんのご協力を得て、適切かつ公平な対応を行いました。
対金融機関では、手形が不渡りにならないように手続きをとり、また、金融機関が担保権を実行しないように、担保権の評価額を確定し、和解する協定(別途権協定)を結ぶべく、交渉を進めました。
手続申立て直後に、裁判所の補助機関である監督委員が選任されましたので、その先生のご指導のおかげで、より円滑に対応することができました。
一方で、税理士・公認会計士の先生との連携により、申立時点の清算貸借対照表(破産した場合の配当率算出を含む)を作成するとともに、経費を削減しながら、売上を予測し、再生計画案の弁済率を検討していきました。

債権者集会

この集会は、ご迷惑をおかけしているすべての債権者様に対して、再生会社の社長さんの誠意と再建への意気込み、再生計画の概要をお伝えする、最初の重要な機会です。社長さんから、債権者の皆様への心からのお詫びと、経営不振に陥った理由及び再建策の要点説明が行われ、その後、我々弁護士からは、債権届出を含む手続の流れ、今後の取引の留意点、各債権者様の再生手続内での取扱いなどをご説明し、説明会は平穏に終了しました。

再生計画案の策定

その後、債権者の皆様から郵送いただいた債権届出について最終確認を行い、認否書を裁判所に提出いたしました。
そして、実際に経営を継続する様子(毎月の貸借対照表・損益計算書)を、裁判所・監査委員・協力税理士・公認会計士の先生方とともに見守りつつ、認否書に記載した債権額をもとに、再生計画案事業計画を本格的に練って、棚上げした債権の弁済率を最終決定する作業を行いました。それに加え、裁判所から指定された債権者集会期日で再生計画案を可決していただけるように、債権者様に対して、再生計画案のご説明を行い、ご理解をお願いしました。

債権者集会・認可決定

これは裁判所内で行われる手続で、可決のためには、債権者の頭数の過半数、及び議決権額の過半数という、両方の要件を満たす必要があります。
今回は書面投票された会社を含めたほぼ全債権者様のご同意をいただき、無事に再生計画案が可決され、後日、裁判所から認可決定が出されました。
債権者の皆様の圧倒的な同意によって、会社の存続にお墨付きを頂いた社長さんの目には、うっすらと涙が浮かんでいました。

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