仮の地位を定める仮処分について

弁護士 工藤 大基


仮の地位を定める仮処分

 民事紛争の最終的な解決手段は,裁判所に裁判を提起して,勝訴判決を獲得し,判決に基づいて権利の実現を図る,というものです。
しかし,裁判手続は,任意の話合いに比べると,どうしても解決までに時間がかかります。そのため,紛争に巻き込まれた方の中には,裁判が終わるのを待っていられないと考え,裁判手続を断念し,不本意ながら相手方に大幅に譲歩したり,そもそも相手方と争うこと自体を避けて泣き寝入りしたりする方もおられます。権利を侵害されているのに,裁判に時間がかかるとの理由から,さらに理不尽な対応を迫られるとなれば,司法そのものに対する信頼も失われかねません。
そこで,法は,このような不合理な事態を解消するため,勝訴の見込みがあり,一定の緊急性が認められる事案においては,裁判手続が終わるまでの間,裁判所が暫定的な権利関係を設定して,仮の権利の実現を図る「仮の地位を定める仮処分」という手続(保全手続の一種)を設けています。
裁判手続に比べると,一般にはあまりなじみのない手続と思われますので,今回は,この「仮の地位を定める仮処分」という手続について,実際の相談例をもとに,どのような形で審理が進むのか,どういった事例で活用できるのか,などについてご説明したいと思います。
“仮の地位を定める仮処分について” の続きを読む

境界確定と取得時効とは両刃の剣(3)

弁護士 北岡 満


取得時効とは

民法162条によると、一定期間(善意無過失で10年、悪意有過失で20年)所有の意思を持って他人の物を占有し続けると他人の物でも所有権を取得することができるとされています。
他人の物を自分のものだと主張するなどとは、そもそも人の道に反すると普通の方は思われると思いますが、逆に言うと、自分の物でもしっかり管理しておかないと、自分のものだと認められなくなるということです。取引の安全、権利の上に眠るものは保護されない、永続した事実状態の尊重という観点からこの制度が認められているのです。 “境界確定と取得時効とは両刃の剣(3)” の続きを読む

境界確定と取得時効とは両刃の剣(2)

弁護士 北岡 満


境界確定訴訟の法的性格について

①境界を確定する訴訟に似た訴訟の形態として、②所有権確認訴訟というものがあります。この二つがどのように違うか簡単に説明します。

①の境界確定訴訟は、公図上にある地番ごとの土地について、その地番の土地の公図上の境界線を、現地で特定して決める訴訟です。すなわち、公図上の筆界(境界)を現地で特定することになります。他方、②の所有権確認訴訟は、現地のある範囲の土地の所有者が誰であるかを特定する訴訟です。それゆえ、②は公図上の地番の境界がどこであるかとは直接には関係ありません(間接的には問題の土地の周辺の土地が公図上でどのようになっているかは重要な判断資料です)。

そして、①の境界確定訴訟は争っている当事者が勝手に話し合って境界を決めることはできず、公の立場で本来あるべき境界を決めなければなりません。すなわち、裁判になると裁判所は、当事者の主張立証を参考にしながらも、独自であるべき正しい境界を判断して決めなければなりません。
②の所有権確認訴訟は、当該土地が誰の所有するものであるかは争っている当事者の間だけで、また、当事者の出す資料だけでその所有者を決めることができます。資料が不足しておれば、資料が不足している者(立証できない者)の主張が認められないこととなります。②の裁判では裁判所はどちらかの言い分を認めるか認めないかを判断すればいいのであって、独自に所有者が誰であるかを調査し判断する必要はありません。 “境界確定と取得時効とは両刃の剣(2)” の続きを読む

境界確定と取得時効とは両刃の剣(1)

弁護士 北岡 満


境界と公図

土地の境界とは、土地の筆界(ひっかい)とも言われているものです。土地は一筆二筆と数えるからです。
土地を所有された経験のある方は、土地に地番というものがあることをご承知だと思います。たとえば、登記簿謄本を見て、地番の欄に「大阪市北区西天満1丁目1番地」と記載があれば、それが地番です。
そして、「大阪市北区西天満1丁目1番地」に該当する土地の図面、すなわち公図を、管轄する法務局で取得することになります。その公図から地番を探し、その公図上の区画の記載からその土地の境界がある程度わかります。
しかし、最近新しく測量して作成された公図なら格別、地方の山深いところの公図は、いまでも明治時代に作成された簡単な配置図のような図面(地籍図といいます)しかないというところが多々あります。そのような公図では土地の境界が大雑把にしかわからず、谷が崩れたり、川の流れが変わると境界は全く分からなくなってしまいます。 “境界確定と取得時効とは両刃の剣(1)” の続きを読む

残業代請求事件

弁護士 寳谷 英一


顧問先からの相談

先日、顧問先の会社から、退職した元従業員から、未払い残業代の請求が来たが、どうしたものか、という相談がありました。
その会社からは、その直前にも同様の相談があり、そのときは、示談で解決しましたが、今回は、そうも行かない事情があったのです。 “残業代請求事件” の続きを読む

民事再生の実務について

弁護士 李 暎浩


民事再生手続きとは

裁判所の公的手続に則って、債務者の債務を一時棚上げしたうえ、債権者の同意を得て債務をカットすることで、債務者の事業・生活を従前どおり継続させながらも、可能な限り債務の弁済をさせる手続です。
個人の方の場合は、簡略化された手続として、個人再生手続きという特則が規定されていますが、今回は、原則的に経営陣の交代を必要とせずに、会社を再建させることの手続きである、会社の民事再生手続の実務について、ご報告させていただきたいと思います。 “民事再生の実務について” の続きを読む