境界確定と取得時効とは両刃の剣(2)

弁護士 北岡 満


境界確定訴訟の法的性格について

①境界を確定する訴訟に似た訴訟の形態として、②所有権確認訴訟というものがあります。この二つがどのように違うか簡単に説明します。

①の境界確定訴訟は、公図上にある地番ごとの土地について、その地番の土地の公図上の境界線を、現地で特定して決める訴訟です。すなわち、公図上の筆界(境界)を現地で特定することになります。他方、②の所有権確認訴訟は、現地のある範囲の土地の所有者が誰であるかを特定する訴訟です。それゆえ、②は公図上の地番の境界がどこであるかとは直接には関係ありません(間接的には問題の土地の周辺の土地が公図上でどのようになっているかは重要な判断資料です)。

そして、①の境界確定訴訟は争っている当事者が勝手に話し合って境界を決めることはできず、公の立場で本来あるべき境界を決めなければなりません。すなわち、裁判になると裁判所は、当事者の主張立証を参考にしながらも、独自であるべき正しい境界を判断して決めなければなりません。
②の所有権確認訴訟は、当該土地が誰の所有するものであるかは争っている当事者の間だけで、また、当事者の出す資料だけでその所有者を決めることができます。資料が不足しておれば、資料が不足している者(立証できない者)の主張が認められないこととなります。②の裁判では裁判所はどちらかの言い分を認めるか認めないかを判断すればいいのであって、独自に所有者が誰であるかを調査し判断する必要はありません。

10年前の境界確定事件

私が、前回に掲載した記事の中で述べた事件は、本件①の境界画定の事件であったのです。そして、争いとなった現地が十津川大水害の跡地であって、公図が作成された時(明治時代)の状況が全く分からない土地であったのです。

争いとなった周辺の土地は、公図上では田畑が細分化されて記載され、地番が打たれているのです。

裁判所はこの境界確定訴訟を受理した後、第1回の口頭弁論の期日までに、この周辺の土地の境界を確定するのは至難の技であると考えたのだと思います。

以下が本件で問題となった公図の一部です。

そして、第一回の口頭弁論期日で裁判官より「両代理人の協力を得て解決させていただきたい」との言葉となったのだと思います。通常この言葉は民事では原告被告が双方譲歩して話合いで解決することを勧める「和解勧告」を意味するものです。しかし、境界確定訴訟は当事者が境界を勝手に決めることはできませんので、境界について和解で決めることはできないのです。それにもかかわらず裁判官が「両代理人の協力を得て解決させていただきたい」というのは、境界を確定するという方法以外の解決を示唆するものです。それほどこの地域での境界を確定することが困難であるかを裁判官が認識されていたものと思われます。

この裁判はその後、裁判所の強いリーダーシップのもとで、境界確定を避け複数の土地を原告・被告間で交換し合うという複雑な経過を経て、両者間が和解し解決しました。この十津川周辺では境界を確定することが、大水害という歴史的事実から物理的に不可能に近いということを実感したのです。

次稿で境界確定訴訟で境界を確定したものの、その天敵ともいうべき取得時効による所有権確認訴訟によってその結果がひっくり返るという事例について述べたいと思います。

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