境界確定と取得時効とは両刃の剣(3)

弁護士 北岡 満


取得時効とは

民法162条によると、一定期間(善意無過失で10年、悪意有過失で20年)所有の意思を持って他人の物を占有し続けると他人の物でも所有権を取得することができるとされています。
他人の物を自分のものだと主張するなどとは、そもそも人の道に反すると普通の方は思われると思いますが、逆に言うと、自分の物でもしっかり管理しておかないと、自分のものだと認められなくなるということです。取引の安全、権利の上に眠るものは保護されない、永続した事実状態の尊重という観点からこの制度が認められているのです。

境界確定と取得時効

本件テーマである境界確定で公図上の線が現場で確定したとしても、他人がその境界線を越えて占有していることがしばしばあります。
境界確定訴訟や筆界特定でやっと自分の考える境界線が認められたので、それで境界線から越境して物を置いている隣地所有者に物を撤去してもらおうとしたところ、相手方から取得時効を主張されることがよくあり、結局自分の主張通りに認められた境界線の実効性がないこととなります。
そこで、境界を決めるときには、そもそも公図上の境界線が明確でそれほどの困難な立証をしなくても現地で復元できるのか、検討する必要があります。もし立証が困難であると、境界を確定することだけで測量その他相当の費用あるいはエネルギーが必要となります。そして境界を復元した時にその境界を越えて長期にわたって占有しているものがいないかどうか、現地で十分に確かめる必要があります。占有には立木などが主張されることもありますので、自然林と思っていたら隣地の人が植林してたものであったりするので、占有の態様には注意が必要です。もし長期(10年あるいは20年)の占有者があり、事前の話し合いで任意に退去してもらえないときは、時効取得を主張される可能性が高いと考えざるを得ません。
境界確定手続にとって、取得時効が天敵と申し上げたのは以上の理由によるのです。土地は公図によってその範囲を決めるのが基本ですが、公図自体が不明確であったり、すでに長期にわたって第三者が土地を占有している場合は、境界確定訴訟で勝ったとしても、その天敵の取得時効で真逆の所有権確認訴訟で相手方の主張が認められることがかなりの確率であるので、境界紛争ではその点を十二分に見極めることが必要となります。そして、現実的には相手方と話合い、現状を認めて新たな土地の所有権の範囲を決め、新たなスタートとすることも必要となるのです。

本件事件では

そして、十津川の事件でも最終の解決方法は、A、B当事者が現実にそれぞれ使用している土地の範囲にある相手方の地番の土地を、AはBに、BはAに譲渡して、それぞれ使用している土地の範囲内にある相手方所有の土地を譲り受けることで紛争を終結させることにしたのです。そして、その話し合いの過程では、互いに譲りあう土地の広さに差があったのですが、その差の分については、相手方がほしいと思っている他の土地を、不足する相手方に譲るということで最終合意に至ったのです。
結局境界確定紛争は境界を確定するだけでは紛争は終結しないのであって、現地の使用状況、進入路の状況、将来の発展の可能性、それらが入り混じって話し合いによる解決に至るのが望ましいのです。

※写真は、十津川の大蛇行と広がった川幅を航空写真で撮ったものです。

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